先秦

先秦と六朝駢文

「ぬぃの中国文学資料庫」にご来訪ありがとうございます。

 こちらの記事では、先秦の文体が、六朝の駢文にどのようにつながるのかについてです(いきなり狭い)

 先秦~前漢あたりって、実はまだ文章の書き方があまりルール化されていなくて、かなり読みづらい癖の入ったところが多いのですが、そういう未整理な感じが、実はけっこう六朝くらいまで残っている……みたいな話です。

古文と駢文(本館記事)

 というわけで、さっそく先秦からみていきたいと思います。

やや無理のある先秦

天の神・祖先の霊・地の神などを祀るときは、祭りに関わるものたちをひきいて日取りを決めて、一日前には祭具などが洗ってあるかをみて、玉や酒などをみて、供え物や大鍋を出して、……王の大礼の詔を出して、一緒につきそう。

凡祀大神・享大鬼・祭大示、帥執事而卜日、宿、眡滌濯、蒞玉鬯、省牲鑊、……詔相王之大礼。(『周礼』春官・大宗伯)

 周代の官職などをまとめた中で、祭祀などの官についてなのですが、かなり癖のあるところが多いです……。

 まず、「宿、視滌濯」は「一日前から(宿)、祭具などが洗ってあるか(滌濯)をみておく(眡)」です……。「滌濯」はどちらも洗うなのですが、これだけで「祭具などが洗ってあるか」って、かなり無理がありませんか……。

 もうひとつ、見慣れない字の「鑊」は、獲物を煮る大鍋です(獲物とかかわる金物なので、大鍋みたいな)

 あと、「詔相」の「詔を出して(詔)、一緒につきそう(相)」って、かなり間が離れている気がします。

 これをみても、先秦って、かなりボゴボゴガクガクしていて、かなり無理のある云い回しが入っています(これが魅力的なのですが)

漢賦のぎちぎち感

 漢代は賦がすごく盛り上がります。ここでは、前漢と後漢の賦を一つずついきます。まずは前漢です。

その笙は、するする速くて切るようで、ひらひら飛んではするすると越え溢れて、さらさら浮かんで巧みで、さらに流れる波に似て、わずかに白い泡が浮かんで小さく洩れてごつごつした石の間に入っていき、狭い澗(谷)につづいていき、……上りつまづき絶えながらつづいて、しだいに薄く濁って沈んでいく――。

状若捷武、超騰踰曳、迅漂巧兮。又似流波、泡溲汎𣶏、趨巇道兮。……躋躓連絶、淈殄沌兮。(前漢・王褒「洞簫賦」)

 こちらは、笙の様子なのですが、とくに気になるのは、まず「踰曳(越えて引きずる)」です。さっきの「詔相(詔を出してつきそう)」みたいに、かなり離れた雰囲気の組みあわせっぽいです。

 あと、「泡溲汎𣶏」もすごくいいです。泡:あわ、溲:排泄、汎:うかぶ、𣶏:わずかに水がある様子なので、「わずかな水が泡をうかべながら洩れて、ごつごつした石のすき間に入っていく」みたいな感じです(この盛り過ぎ感が、さっきの「滌濯(祭具が洗ってあるか)」みたいです)

 もうひとつ、「淈殄沌兮」もすごいです(「兮」は、語尾の「~」「!」みたいなもの)。淈:水が屈する、殄:殲みたいな感じ(亡びる系)、沌:渾沌とした溜水なので、「しだいに淀んできてひっそり暗くなってのろのろ溜まって沈んでいく」みたいな雰囲気です(一字ずつが「淈して、殄して、沌していく」みたいに濃くて分かれている感です)

 こんなふうに、前漢もかなり未整理なところがあるので、一字ずつ無理やり並べたり、詰め込みすぎているところがあります(すごく好きだけど)

 一方で、後漢になると、かなり雰囲気が変わります。

さて、その大きな階段を上って、堂に入ってみれば、ぞよぞよじらじらとして、流れきらめき、とろとろと溶けるようで、……霞はちらちらまだらで雲はのそのそもわもわして、暗いようで明るくて、北向きの部屋を内にかくして、ぼんやりと淵の如き雨雲がのっているようで、がらんとして周りは高い山だらけなのでした……。

於是乎乃歴夫太階、以造其堂、……澔澔涆涆、流離爛漫。……霞駮雲蔚、若陰若陽。……隠陰夏以中処、霐寥窲以崢嶸。(後漢・王延寿「魯霊光殿賦」)

 まず、「澔澔涆涆」は、澔:白波が立ったような大きい水(皓:皓)、涆:水の急なことなので、二つで「じらじらと気味の悪い波のような」です(笑)

 つづいて「霞駮雲蔚」は、駮:まだら、蔚:もわもわと抑えられたような草なので、雲霧がもわもわぼやぼやと溜まった感じです。

 この二つは、かなり見慣れない字が出てきますが、「泡溲汎𣶏(泡を出しながら洩れて浮かびつつざらざらと流れていく)」の散らかった感に比べると、かなり雰囲気がまとまっています(「澔澔涆涆」の白波、「霞駮雲蔚」のぼやぼやまだらな雲みたいな)

 あと、「霐寥窲以崢嶸」については、霐:泓(深くて大きい水)のような雲、寥窲:がらんとしている、崢嶸:高い山なので、「どんより深くて大きな雨雲が、がらんとした上に山に囲まれるように覆っている――」とかですかね……。

 見慣れない字は、後漢の賦でもけっこう出てきますが、前漢の「淈殄沌(しだいに淀んで、ひっそり暗くなって、のろのろ溜まっていく)」みたいに、一字ずつに無理やり詰め込んだ感は無くなっています(前漢は一字ずつ曲がっているけど、後漢は句ごとに意味がまとまっているというか)

 まぁ、かなり分かりづらいけど、前漢って一字ずつが無理やり並んでいて、後漢になると一つの句ごとに切れ目が整えられてくるみたいな感じです。

古めかしい六朝駢文

 いよいよ六朝の駢文なのですが、駢文ではあえて先秦ふうのいびつな云い回しを入れていることがあります(駢文:対句の多い装飾文体)

 こちらは、ある街で、城壁を直していたら、堀の中から古い棺がみつかってしまったので、別のところに埋め直した話です。

一つの大棺をあけてみれば、中には二つの棺が入っていて、供え机などは腐って、器なども傾いていたが、お皿の上には梅や桃があったらしく、壺には酒や肉が入っていたのだろう――。さつま芋の毛、瓜の種などがあって、埋められた人はいつの世の人なのかも知らず……。

若いのか身を全うしたのか、高位なのか民なのかも分からず、書かれた字などもつぶれて、名もわからず。どのように生きていたのかも、ぼんやりとして暗い中のままですが、城壁づくりは始まってしまい、もう土が積まれたところもあるので、堀も動かせず、あなたの棺は街の北にて、東の林に埋めさせていただきました。

墓は新しいものですが、棺は古いものをそのまま用いて、昔のことを敬いて、ふたつの霊をあわせて祀らせていただきます。酒はふたつ、二人の霊はぼんやりと現われましたら、お供えを召し上がっていただけたら嬉しいです。

一槨既啓、雙棺在茲。……几筵糜腐、俎豆傾低。盤或梅李、盎或醢醯。蔗伝余節、瓜表遺犀。追惟夫子、生自何代。……為寿為夭、寧顕寧晦。銘誌湮滅、姓字不伝。……功名美悪、如何蔑然。百堵皆作、十仞斯斉。墉不可轉、塹不可迴。……輪移北隍、窀穸東麓。壙即新営、棺仍旧木。……敬遵昔義、還祔雙魂。……幽霊髣彿、歆我犧樽。(南朝宋・謝恵連「祭古冢文」)

 これ、すごく良くないですか……。ちなみに、ここで祀られた二人の霊は、名前がわからないので「冥漠君」と呼ばれています(このセンスも好き)

 ちなみに、「瓜表遺犀」がどうして「瓜は種を残していて……」になるのかと云うと、「犀の角のように光っているもの(犀)」なので、瓜の種がわずかに艶めいているのが「遺されている光っている物(遺犀)」です。

 これって、「滌濯(祭具などを洗ってあるか)」みたいな分かりづらさじゃないですか……。

 あと、「蔑然」の蔑は、「亡くなっている系の音(無・不・没・勿など。bで始まることが多い)」です(「蔑然」は、薄暗く隠れている感じになります……)

 もう一つ、あえて古めかしい駢文をみてみます。

周王は、古い世の王の後裔を祀り、昔のことを制として重んじたというが、私も大きな天に応じて世を受け、古い礼式を探り求めれば、とても大きな朝儀を聞きて、その重々しく長いことに畏れ入るのでした。

周は夏・殷などと近くして、漢は長く天下を有し、魏晋もそれに継いでいるので、いずれも後裔を立てて、絶やさずに立てていくべきで……

周王……褒立先代、憲章在昔。朕嗣膺景業、旁求雅訓、有一弘益、欽若令典。以為周兼夏殷、……漢有天下、……魏晋沿襲、……並宜立後、以存継絶之義。(隋・煬帝「為周漢魏晋立後詔」)

 訳すと全然雰囲気が出ないんですよね……。

 まず、「褒立(重んじて立てる)」「嗣膺(継ぎて応じる)」「旁求(広く求める)」みたいな、「詔相・踰曳」系の馴染みのやや悪いものが入っています(この無理やりな組み合わせがすごく古めかしい魅力になります)

 あと、「欽若」は「欽然」と同じです(「欽」はつつしむ・敬う)。突然・突如みたいに、どちらかというと「突如」のほうが古めかしく感じませんか(「然」のかわりに「如・若」を用いることが先秦では多いです)

 もう一つ、「継絶(絶えそうなものを継ぐ)」って、いきなり一字ずつで分かれて、しかも糸偏が二つなのが、「泡溲汎𣶏」とかみたいに、一字ずつがたがた曲がる感じになっています……。

 こんなふうに、六朝の駢文って、実はかなり先秦っぽいような古めかしい云い回しをところどころに入れたがる気がします(もっとも、当時からどこか不自然なのは気づいていたらしく、六朝の賦って、全然こういう古めかしさが無くなるんですよね……)

六朝駢賦  傑作選(本館記事)

 というわけで、先秦の未整理なところが、少しずつ形をかえて六朝期まで残っている様子をまとめてみました。駢文って、実はややぎこちない擬古体みたいな感じだったのかも……というのを、なんとなくでも感じていただけたら嬉しいです。

 お読みいただきありがとうございました。

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ぬぃ
こちらでは、中国文学のやや深く狭めな話をのせていきます(もっと分かりやすい話は、下のリンク先にあります♪)

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